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第二章 第零話 祀の礎
後世に語られなかった想いは渦となり、
次代の”乙女”に託された。
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さぁさぁ、こっちへおいで。
高天原の国造り神話を、聞かせてあげよう。
昔々、
神と妖怪、そして人間が共存していた時代。
神に生涯を捧げた少女がいました。
しかしある時、少女はある青年に恋をしてしまったのです。
青年は、少女の手を取り言いました。
「共に逃げよう、神の力の及ばぬ土地へ」
少女はとても喜びましたが、
蜜月は束の間。
それを知った人々は、口々に言いました。
「神をも恐れぬ愚かな青年に、罰を与えよう」
青年は咎人として、村人の手で葬られました。
密かに、土地に巣食う悪と噂されていた妖怪も、
同時に闇の中へ・・・・・・
見かねた神は言いました。
「奪う者は、その痛みを知らねばならぬ」
その直後のこと。
土地を鑓水が押し流し、人が大勢死にました。
人々は悲嘆に暮れ、来る日も来る日も神の救いを請いました。
そして、
とうとう見かねた少女が歩み寄り、
「竜神様に添い遂げ、私が国の礎となりましょう」
そう言って、土地の守護神である竜に嫁ぎました。
身を持って怒りを沈め、その土地を護ったのです。
薄幸な少女を悼み、人々は立派な社を築きました。
奉納には、作物や地酒、時には絹や金まで、
絶える事がありませんでした。
やがて、
村々は集結して一つの国になり、
竜神と少女を讃え、『高天原』と呼ばれるようになったのです。
未来永劫、神と少女の加護があるようにと。
これが、高天原の国造り神話。
老若男女誰もが知る常識として、土地に残っている。
しかし、この伝承には誤りがあった。
「私から全てを奪ったあなたたちを・・・・・・
幸せになんて、してあげない」
後世には語られなかった、想い。
土地を追われた者達が辿った、憎しみの末路。
その全ては、次代の”少女”に託された。
舞台は、伝説が息衝く国・高天原。
時代は、第十二代目の国主・涼風の宮の御世のこと。
国の始まりのあの日から、
五百年の歳月が過ぎようとしていた。
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