零話 「降雨」 ―― お次は、どんなお伽話だい? そうさね・・・ 一つ、哀しく美しい物語を聞かせよう。 舞台は、東の果てのそのまた先。 運命に引き裂かれた、二人の若者のお話だ。 さぁさ、寄っておいで。 胸の底に、血の雨が降る。 「遥くん、大好きだよ」 そう言ったのは、花のような笑顔の清廉な少女。 透き通る肌に、愛嬌のある大きな瞳、栗色の巻き毛。 俺の、たった一人の人だった。 別れの瞬間も、美しく微笑み告げた。 「生きていたら・・・きっと、また会えるからね」 その言葉を信じて、俺は待った。 ”もう一度逢いたい” その気持ちが、俺を繋いでいた。 しかし、現実の厳しさを知る。 鮮血に染まり、歪められた美しい顔。 巻き毛に血が絡んで、点々と規則的に滴り落ちる。 「さよならなんて・・・言いたく、ないよ・・・ ずっと、一緒に生きて行きたかったよ・・・ずっと・・・!!」 微かな呼吸を、俺はひたすらに辿った。 音が途絶えた瞬間に、世界が止まってしまうから。 奪われたもの。 護れなかったもの。 それは、”俺の全て”だった。 漆黒の闇夜に、血の雨が降る。 弔いの白い花房を・・・紅く、紅く染めながら。 |